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横浜地方裁判所 平成4年(ワ)3515号 判決 1994年6月17日

主文

一、原告らの各株主総会決議不存在確認の訴えをいずれも却下する。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一、請求(原告ら)

(被告株式会社サニーハウスに対する請求)

一、被告会社の平成三年四月二三日開催の株主総会における取締役金子恭子を解任する旨の決議及び根本守を取締役に選任する旨の決議並びに平成四年一月三一日開催の株主総会における小笠原孝之、椿俊雄及び根本守を各取締役に選任する旨の決議はいずれも存在しないことを確認する。

(被告らに対する請求)

二、原告金子恭子が別紙目録記載一の株券につき、同金子誠が同目録記載二の株券につき、それぞれ所有権を有することを確認する。

第二、事案の概要

本件は、不動産会社の元代表取締役とその夫である元取締役が、該不動産会社に対し、元代表取締役の取締役解任と新たな取締役ら選任の各株主総会決議の不存在確認を、同会社と現取締役の一人に対し、株主権を主張して株券の所有権確認を求めた事案である。

一、争いのない事実

1. 被告株式会社サニーハウス(以下被告会社という。)は、昭和六三年一二月一四日、資本金五〇〇万円で設立された。

2. 被告会社の設立当初の株主の名義と各持株数は左記のとおりであった。

原告金子恭子 九三株

原告金子誠   一株

秋山伸之    一株

秋山由美子   一株

加藤宏     一株

平間正二    一株

溝淵哲史    一株

日高京子    一株

3. 原告金子恭子は、被告会社設立時の代表取締役に選任され、平成二年一月二六日改めて代表取締役に選任されたが、平成三年四月二三日開催の株主総会において取締役を解任するとの決議がなされた旨の株主総会議事録が作成され、平成三年五月七日右解任の登記手続きが経由された。

4. 平成三年四月二三日開催の被告会社株主総会において訴外根本守を取締役に選任するとの決議がなされた旨の株主総会議事録が作成されて、平成三年五月七日右選任の登記手続きが経由され、さらに、平成四年一月三一日開催の株主総会において同訴外人を再び取締役に選任するとの決議がなされた旨の株主総会議事録が作成されて右重任の登記手続きが経由された。

5. 平成二年一月二六日開催の被告会社株主総会において被告椿俊雄及び訴外小笠原孝之を取締役に選任するとの決議がなされた旨の株主総会議事録が作成され、右選任の各登記手続きが経由され、さらに、平成四年一月三一日開催の株主総会において同被告及び同訴外人を再び取締役に選任するとの決議がなされた旨の株主総会議事録が作成されて平成三年五月七日右重任の登記手続きが経由された。

二、争点

1. 株主総会決議不存在確認の訴えの利益の存否

2. 原告らは被告会社の株主か

原告らは、被告会社の発行株式一〇〇株の引受金五〇〇万円は原告らが出資したものと主張し、被告らは、被告椿俊雄が全額出資したものと主張する。

第三、判断

一、株主総会決議不存在確認の訴の利益の存否

1. 平成三年四月二三日開催の株主総会決議不存在確認の訴について

証拠(甲一)によれば、被告会社定款第二三条は、取締役の任期を、就任後二年以内の最終決算期に関する定時株主総会の終結の時までとしていることが認められ、これによれば、原告金子恭子は、仮に取締役を解任されなかったとしても、既に平成四年一月三一日に任期満了となり退任していることが明らかであり、訴外根本守も右同日任期満了によって退任し、新たな取締役が選任されその登記が了していることは当事者間に争いがない。

従って、既に後任取締役が選任されてその登記が了した後に、それ以前に退任した取締役の解任及び選任の決議不存在確認を求める原告らの請求は、現在の法律関係を対象とするものではなく、かつ即時確定の利益も認められないので確認の利益を欠くものというべきである(なお、原告らは、後記のとおり、被告会社の株主としての地位を有しないものである。)。

2. 平成四年一月三一日開催の株主総会決議不存在確認の訴について

前掲甲第一号証(被告会社定款)によれば、被告椿俊雄、訴外小笠原孝之及び同根本守は、平成六年一月の定時株主総会終結時にその任期がいずれも満了となるべきところ、右定時株主総会の召集がなされたか否か、召集された場合その終結時はいつか、その後新たな取締役選任の手続きがとられているのか否かなどについては本件全証拠によっても明らかではない。しかしながら、後記のとおり、原告らは、被告会社の株主としての地位を有しないものと認められるので、株主でない者の株主総会決議不存在確認の訴は確認の利益がないものと解すべきである。

二、原告らは、被告会社の株主か

1. 証拠によれば、次の事実が認められ、左記認定に反する原告金子恭子本人尋問の結果はにわかに採用できない。

原告金子恭子は、昭和六三年一一月ころ宅地建物取引主任の試験に合格し、平成元年五月ころその資格を取得したものであるが、昭和六三年一二月ころから、被告椿俊雄が代表取締役である訴外株式会社オークラハウジングの菊名サービスセンターで働くようになった。

原告金子恭子は、菊名サービスセンターの事務所及び什器備品、営業を全て引き継ぐかたちで設立された被告会社の代表取締役となったが、菊名サービスセンターで働いていた平成元年一月から、被告椿俊雄に対し被告会社の営業成績等について毎月報告書を提出し、これが被告会社の代表取締役に就任した後も平成二年四月まで続いていた。

また、被告会社が不動産業を開始するにあたって供託が必要な保証金一〇〇〇万円は、被告椿俊雄が提供した。

被告会社の役員は、設立当初は原告金子恭子の代表取締役のほか、同原告の夫である原告金子誠及び弟の訴外秋山伸之が取締役、右秋山の妻秋山由美子が監査役にそれぞれ就任したが、一年後の任期満了時に、被告椿俊雄の意向で代表取締役は原告金子恭子が重任、取締役として被告椿俊雄とその部下である訴外小笠原孝之、監査役として訴外株式会社オークラハウジングの顧問税理士である酒井徹がそれぞれ就任した。また、株式についても、設立時に原告らとその親族らの名義であったものが、被告椿俊雄の意向により、発行済株式数一〇〇株のうち同被告が八一株、原告金子恭子が一九株の株主である旨の税務申告がなされ、これらの手続きについては、被告会社の代表者として原告金子恭子も関与したが、同原告から特別異議ができることはなかった。

被告椿俊雄は、原告金子恭子が平成二年五月以降営業報告を提出しなくなったこと、平成二年八月ころから平成三年にかけて両者の間に土地売買に関係する預り金の紛争が起こったこと等から被告会社の支配が困難になることを畏れ、同原告の解任を決意した。

2. ところで、被告会社の発行済株式一〇〇株の引受金五〇〇万円の出資について、原告金子恭子は、父親からの借金や手持資金によって賄った旨供述し、それにそう証拠として甲第一四号証の1ないし3、第一五号証があるが、これらの書証を客観的に裏付ける証拠に欠けるところ、他方、被告椿俊雄は、訴外多田國雄への貸金五〇〇万円が返済されたため、これを引受金に充てた旨供述し、これにそう証拠として乙第一二号証があり、同号証自体は客観的な裏付けに欠けるものの、前記認定の各事実を合わせ考えると、被告会社は、被告椿俊雄が資本金の全額を出資して設立され、当初より同被告の支配の元に経営されてきた会社であると認めるのが相当である。

3. 以上によれば、被告会社の株式の引受について、原告らはいずれも単なる名義貸与者(前記認定の被告会社設立の経緯に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らは名義貸与につき被告椿俊雄に承諾を与えていたものと認められる。)であり、実質上の引受人は、被告椿俊雄であると認められるので、同被告のみが被告会社の株主であると認めるのが相当である。

そして、原告らの株券の所有権確認を求める請求の実質は、原告らの株主権の確認を求めるものと解されるので、以上の理由により、原告らの右請求はいずれも理由がないこととなる。

三、よって主文のとおり判決する。

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